作家・遠藤良太による新作完成秘話
今回、Ne'yankaの12月公演用の脚本『死刑台の上のイヴと電気箱の偶然の出会い』を
書き上げました遠藤良太です。
今年4月に、Ne'yankaにて僕の過去の作品『黒い二、三十人の女』*2を
再演していただく運びとなり、多くのお客様に見ていただきイイ気になっているところへ、
お酒の席で散々おだてられて、ついに新作を書くことになったわけですが、
そこには、たくさんの「偶然の出会い」がありました。 偶然の出会い1 今作は、なんと2005年以来、本当に久しぶり過ぎる新作です。 ちなみに、前作であるその2005年の作品は、友人に頼まれて書いた短編『イヴの入る箱』*1です。
その友人こそ、他でもないNe'yankaの主宰、両角葉。
偶然の出会い2
2002年の『黒い二、三十人の女』上演時のパンフレットに次回公演予定として『蜘蛛女のミス(仮)』とタイトルが載っています。これはマヌエル・プイグの名作「蜘蛛女のキス」をネタにした冗談でした。今年の再演にあたって参考までにパンフレットを読み返してみたところ、自分でも忘れてましたが、そんなことが書いてあったわけです。結局この作品は一文字も書かれることはありませんでした。本当にただの冗談でした。
偶然の出会い3
今年4月の『黒い二、三十人の女』の公演時にお配りしたパンフレットには、次回作として『蜘蛛女のジャズ』という作品が載ってますが、これも、次回公演予定作品のタイトルがなかなか決まらず、もう適当に前回の「遊び」を踏襲し、かつ主宰から「ジャズ」をテーマにという希望があったので、混ぜただけのタイトルでした。
さてここから生みの苦しみがスタートです。なんとかタイトル通りの作品を書こうと四苦八苦。 「蜘蛛女」については、ギリシア神話のアラクネをイメージしました。機織女ですね。
偶然の出会い4 前回の『黒い二、三十人の女』のラストシーンはベルリオーズの「死刑台への行進曲」をイメージしていました。そこで、今回は死刑台から始まる物語を構想しました。しかし!クリスマス公演にそれはない、という事で却下。しかし死刑のイメージは残ります(それもどうかと思うが)。
そして宮廷演奏家の女性が女王の前で不敬な演奏をし、死刑宣告されるという物語を作ってみました。ある一連の音符の並びを彼女が一音変えて演奏したことが、国にとって重大な秘密になっていて、その音符の並びこそがジャズでいうブルーノートだったというような感じで無理やり「ジャズ」を組み込みました。
このストーリーで主宰と話しを詰めていたのですが、実は、自分の中にもう一つ腹案がありました。それは「ジャズ」の要素をやめてしまうというちゃぶ台返しです。
ただ主宰の希望なので、いきなり「ジャズ」をなくすと言ってもよろしくないと思い、平行してもう一つのバージョンを書いていきました。「演奏」ではなく「服飾」にすることでアラクネのイメージを強調し、かつ「王女メディア」のような殺人事件を起こし、かつ推理物の要素も入った作品で、これを主宰に見せ、一応OKをもらったわけです。これが『蜘蛛女のミス殺人事件』という作品になります。ここで「蜘蛛女のミス」が戻ってきました!
そして、内容的にクリスマスに相応しく、僕と主宰を結びつけた前述の『イヴの入る箱』も上演することにし、もう一作『電気を大切に』を書き、3作品のオムニバス公演としました。
こうしてタイトルが『死刑台の上のイヴと電気箱の偶然の出会い』となりました。
これは、ロートレアモンの「解剖台の上のミシンと雨傘との偶然の出会い(のように美しい)」という常套句のもじりなので、ちょっと長いですね。ただ、今回のオムニバス公演にぴたりとあったタイトルになったと思ってます。(勿論ただのオムニバスではないことは断っておきますよ)
今年5月から4ヶ月に渡って書いた作品です。まだ上演稿への作業はありますが、僕にしてはシンプルでおかしみのある作品に仕上がったと思ってます。
さあ、上演まで漕げ付けるか。それとも焦げ付くか。あとは主宰にこの作品をバトンとして手渡したいと思います!!
※ネタバレを防ぐため、上記、真実ではない情報が含まれています。。。
*1:2005年1月に友人の女優、両角葉の誕生日パーティーでの上演用に頼まれて書き下ろした短い3人芝居。「誕生」というキーワードに「全ての箱が入る箱」のパラドックスをからめた小さな会話劇。
*2:2000年11月のSPEAKER370の第6回公演用に書いた未来のドイツ第4帝国を舞台にした哲学的サスペンス。2002年の再演版ではモリエールの『タルチュフ』やチャペックの『R.U.R.』など様々な引用のゲームが加わり決定稿に。2005年3月、劇団Three Dimensionsが、2016年4月、Ne'yankaがこの作品を上演。タイトルは『黒い十人の女』のもじりだが、内容は全く無関係。